吉田正仁『リアカー引いて世界の果てまで 地球一周4万キロ、時速5キロのひとり旅』(幻冬舎文庫) 書籍 2015年06月16日 0 これもまた、タイトルとサブタイトル通りの内容である。幻冬舎の方針なのかもしれない。もう少し詳しく付け加えると、当時ニートでどちらかというとインドア派だったという著者の吉田正仁は、思い立って、必要な荷物を積んだリアカーを引いて徒歩で上海からポルトガルのロカ岬までのユーラシア大陸横断を試みる。ロカ岬に辿り着いた著者はそこで満足せず、アメリカに渡り、大西洋岸のアトランティック・シティからカナダのバンクーバーまで北米大陸を横断。次いでオーストラリア大陸も徒歩で横切り、東南アジア諸国を渡り歩いて出発地の上海まで戻る。総移動距離は、赤道一周と同じ4万キロだという。4年半かかっている。リアカーに積んだ荷物は70キロ以上。テントなども持って、野宿も多かったようだ。オーストラリアでは一日60キロのペースで歩いたというから驚く。ちなみに、リアカーのタイヤは井上ゴム工業(IRC)のものを日本から6本持っていったがとうとう使い果たしてしまい、現地でタイヤやチューブを入手するも、どれもすぐにダメになってしまったそうだ。さすがはIRCということか。旅を終わらせたくなくなる心理現象がこの著者の場合もやはり起きているようで、上海に着いた後も日本に帰る前に台湾一周をして、さらに帰国後も大阪から自宅のある鳥取まで歩いている。心理的なクールダウンの為にも、こうした延長戦は必要になってくるのかもしれない。しかし、このレベルの旅になると自分も行ってみたい、というような気持ちはまるで湧いてこない。著者は旅の途中で何度か体調を崩しているようだし、犯罪や事故に巻き込まれる危険もあっただろう。そう考えると、旅行によって得られる満足感より、リスクの方が遥かに大きく感じてしまうのだ。著者がどういう人物かまったく存じ上げないが、文章から感じる印象は真面目でどちらかというと内向的な青年である。この旅に同行者はいない。英語もろくに通じない地域も多かっただろう。多くの人が歩く道であれば、歩くペースの近い者どうしで親しくなっていく機会もあるだろうが、地球一周の徒歩旅行ともなるとそれも難しい。自転車旅行者との交流はあったようだが、如何せん、徒歩と自転車とではスピードが違いすぎるため、長くは一緒にいられない。孤独な旅である。本には、旅先で出会った人との交流のエピソードが書かれているが、そうした人とも別れて旅を続けなければならない。この本はつまり青春の記録なのだろう。だからもう自分では真似はできないし、そんな気持ちも湧いてこない。ただ少し遠くから眺めて、こんな青春を送った人もいるんだなという感慨が湧き上がる、そんな本だった。森知子『カミーノ! 女ひとりスペイン巡礼、900キロ徒歩の旅』(幻冬舎文庫) [0回]PR