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いろいろ歩いて行くブログ

いろいろ歩いて行った記録です。 山域のカテゴリーはだいたい昭文社の登山地図にしたがっています。

村上春樹『雨天炎天』(新潮社)

1988年の旅の記録なので、少し古い本だ。
ベストセラー作家村上春樹の作品としては地味な部類に入るかもしれない。
この本の前半はギリシャのアトス半島の徒歩旅行、後半は自動車でのトルコ一周旅行について書かれている。より面白いと感じたのは前半の方で、ブログのテーマからも前半に絞って感想を記したい。

アトス半島はギリシャ正教徒にとって巡礼地である。女人禁制であり、外国人は三泊四日までしか滞在を許されない(村上一行はトラブルにより滞在が一日増えてしまうのだが)。
村上春樹は、その巡礼路を歩いて修道院を巡って行く。
修道院は巡礼者に食事や宿泊を提供してくれる。これは正教徒でなくても構わないようだ。

文体は例の「春樹節」で、好き嫌いはともかく読みやすいと思う。
カメラマンと編集者が同行しており、彼らの折々の言動も記されてはいるのだが、キャラクターとしてクローズアップされることはあまりない。あくまで、作家村上春樹が自らの印象を記していくというスタイルだ。それだけ「春樹節」が冴えるわけだが、仲間たちとワイワイやっている臨場感は乏しくなってしまうのは仕方ないか。

五日間の徒歩旅行。
旅行記という括りで見れば特別すごいことをしているわけでもないけれども、村上の視点から描かれるギリシャの巡礼地の様子は一読の価値がある。
地中海の日差しに照らされてギリシャの山道を歩いた後に、古びた修道院で振る舞われる甘いギリシャコーヒーと強い酒のウゾー、ダダ甘いルクミというゼリーは、どんな味がするのだろう?

数ある村上春樹作品の中で不思議と気になる作品だ。
文庫化されているが、単行本も新装版が手に入る。

森知子『カミーノ! 女ひとりスペイン巡礼、900キロ徒歩の旅』(幻冬舎文庫)

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